『トランスアメリカ』
- 出版社/メーカー: 松竹
- 発売日: 2007/01/27
- メディア: DVD
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タイトルには二通りの意味があって、トランスセクシャル(性同一性障碍)とアメリカ大陸横断(=トランス)。性的マイノリティと親子の絆を描いたロードムービー。おもしろかった…!
トランスセクシャルの主人公、ブリーは身体を女性にするための性転換手術をひかえている。長年の夢がやっと叶う――という今になって、突然、男性として過去に付き合っていた女性との間に息子がいることが判明する。
逮捕されたので引き取りにきてくれとの連絡を受け、正体を隠したまま息子=トビーに会う主人公。養父のもとに送り届けるために彼を車に乗せてふたりきりの旅がはじまる。身体は男性であること、なにより父親であることを隠したままの旅だ。
反抗的だったトビーがしだいに心を開き、ブリーに対して信頼をよせていく過程が微笑ましくもいじらしい。美少年なトビーは荷物を盗まれて一文無しになったときガソリン代を稼ぐために休憩所でおっさん相手の売春をして金を手に入れるのだけど、それを内緒にしているのもけなげすぐる。
このあたりになると最初は憎たらしかった彼が年相応に幼く、すごくかわいく見えてくる。彼は反発したり怒られたり反抗したり構われたりする旅のなかで子どもをやり直していったのかと思う。
通い合ったかと思われたふたりだったが、秘密がばれてしまう。身体は男性だというのを知ったとき(判明するのはブリーの立ちションのシーン…!)トビーが激怒したのは嫌悪感よりもなによりも信頼しかけた相手に『裏切られた』と感じたからだろう。
主役の女優さんはアメリカの人気TVシリーズ・デスパレートな妻たちに出演しているフェリシティ・ハフマン。名演すぐる…!惚れ惚れした。いわれなければ本当にMtFの方かと思ってしまう。
というか、最初てっきりそうだと思っていたので驚きました…なんというかこう、“心は女性なんだけど身体が男性で、女性としてふるまっているもののやっぱり少し不自然なところもある”という演技。すばらしかった。ラストで性転換手術をすませたあとはそれが緩和されて、自然に女性らしい身のこなしになっている変化にも脱帽。
トビーが旅の終わりに本当は父親だと知らずブリーに淡い恋心を抱き、愛を告白して、抱きたいというシーンは切なすぎた…この時点ではもうブリーの身体は男性だということを知っていて、それでもなお「あんたはきれいだ」といってキスをする若い男の子の姿。拒絶され、傷ついて、そして知ってしまう最後の秘密。せつない。
ラストがいい。
トビーの選んだ決して日のあたる道ではない仕事を受け入れながらもいうことはちゃんということはいう叱るところは叱るブリーとふてくされながらもいうことをきく息子に、胸の奥があたたかくなる。名作。