あの夏。

 1999年、7月。

 世紀末。

 終わるはずだった世界に、僕たちは取り残された。



 彼はこう書いていた。結局は終わり損ねた世界、と。

 そこで、僕たちはこんなはずではなかったと思っている。考えている。どうやったら、あの世紀末をやり直せる? 



 もしうまくいけば僕たちは見ることがかなわなかった世界の終わりを見ることができるだろうか。
 行くことがかなわなかった、この世の果てに行き着けるだろうか。


 青臭くってどうしようもなく自己中心的で自己陶酔をしていて自分が特別な存在だとまだ信じることができたあのころ。世界と自分のあいだにはくっきりと線が引かれていると思っていた。



 もしもあの世紀末をもう一度やり直せるとしたら、君はどうしたい? 



 物心ついたころにはもうすり込みのように終末思想をメディアから浴び続けてきた僕たちが『世界の終わり』に思春期特有の不安定さと敏感さと繊細さであるわけがないと苦笑しつつもなにかしらの期待をしてしまったのは、きっと僕たちのせいだけじゃないと僕などは考える。



 もちろん僕は何百年も前の予言者だか預言者だかの詩を信じていたとは到底いえない。


 雨後の竹の子のように巷にあふれた関連書や研究書のたぐいを手にとってみても、どうやって笑いものにしてやろうかと考えていた。


 それはテレビの関連番組を観ても同じだった。ありえねー、とげらげら笑っていた。そうじゃなかった人間なんて、テレビにまで出て自説を力説していたノストラダムス研究者の人たちくらいだろうと思うのだが、彼らだって本当に本気で人類が滅亡するかも、なんて思っていたかはどうか定かではない。



 七月じゃなくて旧暦だと八月に恐怖の大王はくるんだとか、正体は人工衛星の墜落だとか。なんでもよかった。原因など。


 ──僕はただ、なにか、そうなにか特別なことが起こるのではないかと期待していた。



 なんといっても世紀末なのだ。
 これが終わると新世紀がきてしまうのだ。



 それは特別なことでなくてはならなかった。
 特別なことには普通でないイベントがセットでなくては気が済まなかった。



 そう考えたのは僕が思春期をやっと抜けたところで、しかも年齢のちかい彼らが自分より弱い者を傷つけたりナイフを文字通り場違いな学舎にて行使したり実行可能かどうかわからない犯行予告をネットの掲示板に書き込んだりすることで『特別な存在』である自分を世界に向かって必死に誇示していた時代だったために。



 僕は最近、高校の同級生だった人物から手紙を受け取った。



 その手紙はふつうの茶封筒にはいっていたのだが、分厚すぎて超過料金をとられた。手紙は青いボールペンで四百字詰め原稿用紙に汚い字で書かれていた。



 まず、あまり親しくもなく共通点といえば何度か図書室で会って好きな本の話をしたことがあるというだけの僕にこんな手紙を送ることを許してほしいという書き出しではじまり、大学に一浪して進んだんだけどなんか行けなくなっちゃって今はよーするに半ひきこもりみたいなことをしてますー、というようなことが茶化した、それゆえに痛々しく見える文章でつづられていた。



 そのあと彼の手紙は突然こんなことをいって君はとまどうかもしれないから、先に謝っておきますごめんなさい、そう前置きしたあとで前半よりはいくぶんシリアスな調子でこのように続く。




『もう僕の思春期は──自分が世界を変えられる特別な存在だと信じ込むのに必死になっていた時期は、どうやら、いつの間にか、終わってしまったようです。



 そのことに気づかないふりをすることすら、当たり前ですが、もうできないようです。



 僕が十二歳のとき、某カルト団体が地下鉄に細菌兵器を撒き、その首謀者が逮捕される瞬間を、僕は、小学校の教室のテレビで観ていました。



 僕が十四歳だったころ――君もほぼリアルタイムで観てたといってたよね? あのアニメが社会現象にまでなり、僕もまたご多分に漏れず気弱な主人公や包帯少女に自分の姿を重ねていました。



 十七歳の1999年、グランドクロス、小さいころから刷り込みのように聞かされてきて、信じてはいなかったけれど、どこかで望んでいた世界の終末は、やっぱりきませんでした。



 1983年生まれである僕は、神戸の中学生やバスジャックを行った少年とほぼ同じ年です。


 これは、おそらく同じ年齢で同じ事件や社会現象を体験してきた、ということです。



 終末思想を、メディアから、エンターテイメント作品から、垂れ流しのように浴びてきた僕たちです。



 何かをしなければ、と焦り、何かが起こる、と期待し、世界を変えられると信じ、『特別』であるはずの自分の存在を皆に知らしめなくてはならない、世の中に認められたいと切望しながら、やはりそこは子供なので有効な手段をもたなかった僕です。



 神戸の中学生やバスジャック少年の行為をあくまで否定しながらも、なんとなく気持ちが分かる……と思うのはそのせいです、きっと。



 僕はまだ輝かしいはずの新世紀にとまどっています。こんなはずじゃなかった、と、どこかで思っています。



 終わるはずだった世界、終わらなかった世界、結局は終わり損ねた世界、そこで思春期を過ごし、十七歳で世界の終末をむかえるはずだった僕は、リセットに失敗した僕は、二十三歳になった今でもなにをすべきなのか、正直、よく分からないままです。



 なんとなく中途半端なまま、自分のなかで区切りをつけられずに、それでけっこう過ごしてきたので、いい加減そろそろ飽きてきたくらいに、もうなんか自分でもわけがわからないです。ダメダメです。



 せめて完全なひきこもりにはならないように心がけていますが、紙一重とゆうか症状は一進一退です。季節の変わり目には必ず鬱になります。



 でも犯罪者にはなりません。
 そんな行動力は、僕にはありません。とゆうか犯罪を犯すくらいだったら迷うことなくひきこもりを選びます。全然、自慢になっていませんが。



 こんな──裏切られたような、置いてきぼりを食わされたような感覚は僕だけのものでしょうか? 他の同年代のみなさんも多かれ少なかれ感じていることなのでしょうか? 



 今は、ちょっとだけ、それを知りたいと思います』。



 ──ここで唐突に手紙は終わる。



 彼がたいして親しくもなかった僕に対して具体的にはなにを訴えたかったのかは、正直いってよくわからなかった。



 最後のほうの文章だって疑問形になっていたものの、君はどう思う? といった積極的な問いかけではない。



 しかし彼が抱える漠然とした不安、おそらくはそれが理由で半分ひきこもりになってしまったその不安は、表現の違いはあっても僕も同じように持っているもので、それゆえに、僕は彼の手紙に共感できたし、めずらしくも返事をだそうと便せんと封筒を買いに行ったりもした。



 ──けれど僕は結局、彼に返事を出さなかった。


 
 彼の手紙を僕が受け取ってから三日後、彼が逮捕され、そのニュースは昔からの友人の情報網をあっという間にめぐり、僕のところにも届けられ、僕はめでたくもめでたくなくも拘置所の面会室の仕切りごしに彼と再会できたからである。



 ……犯罪者になるくらいだったら迷うことなくひきこもりを選びます――じゃなかったのかよ、と僕がうんざりした気分をかくさずにいうと、彼は顔をゆがめて、うんうん、とうなずいた。



 なにがうんうんだ、アホかお前。
 

 僕は一発殴ろうかと思いついたが、半泣きで鼻水をすすっている元・同級生(23歳・無職)があまりにも情けなく感じられて、やめにした。



 こいつと熱い友情をむすぶためには拳をふるったほうがよかったのかもしれないが、僕はそもそもこの男と友達になりたいなどと思ったことは一度もない。



 ましてや、電車内で小学生に痴漢行為をしようとして未遂に終わっただけでなく彼女と彼女の友達数人(全員、女の子だ)に撃退され、逃げようとしたところを押さえつけられ電車から引きずり降ろされて駅員に「このおじさん、痴漢です」と突き出された、そんなやつはたとえそれまで友人であっても速効で絶交だ。



 怒るよりも、しみじみと呆れた。



「やってたよ今朝、ワイドショーでさ」


 僕がため息をつくと、彼は小さくなろうとしているのか肩をすぼめた。そのまま貧乏揺すりをはじめたので僕はひどく苛ついて、やっぱりこいつ殴るしかないかなとか考える。



「情けないよな。ありえねーよ。相手何年生だって? 四年生? 五年生だっけ? 痴漢しようとする行為がまずそもそもありえないし。しかもさぁ、なんでそのあとボコられてるわけ? 相手何人よ。四人だろ、たった四人。しかも小学生で女の子なんだろ? なにがどうしたら十歳かそこらの女の子たちに押さえつけられてさ、警察に引き渡されちゃうんだよ。お前、ほんっとにありえねーよ――バカ」



 できる限り言葉の暴力ですまそうと思った僕はとりあえず語尾にバカ、と付け加えてみた。すると彼はう、く、く、く、と下を向いて肩を震わせうめきはじめた。



「なに笑ってんだよ、気持ち悪いんだよ」



 バカ。もう一度いうと彼は顔をあげ、



「笑って――笑って、るん、じゃないよ」



 とぎれとぎれにいう彼の目には涙が光っていた、なんてきれいな表現ではまちがっていて、涙と鼻水が同じくらいの量で、頭に血がのぼっているのか赤くなり毛穴が開いたにきびのあとがのこる顔面の皮膚をだらだら流れている。



 ぎょろっとした大きな目は充血していて、髪の毛はぼさぼさで、彼がここ数日味わってきた苦節を物語っているが、僕にはただ汚いから風呂入ってこいよお前くらいの感想しかもたらさなかった。唯一、ひげは剃っていたのが救いだ。
 
 剃り跡は汚かったが。



★青臭いのだとこんなのも。

世界の終末とアウトサイダープレイヤー

 階段をのぼるとき、いつも仕事のはじまりを意識する。


 これは儀式だと思う。祈りかもしれない。
 誰かの世界を終わらせるための。
 どこかの物語をはじめるための。


 建物自体にほとんど人気がないせいか屋上に続く階段も静かだった。まるで遮断されているようだった。まだいろいろな音は聞こえなくていいと思う。これからだ。これから。


 薄暗く、空気は淀んで、硬い靴音だけが響いてはすぐに消える。足音。視覚から感触へそして聴覚へと、めまぐるしく続く再認識。オーケー了解、俺は歩いている。


 ドアノブに手をかけた。


 扉の向こうには曇り空が広がる。頭上に灰色がたれこめ、曇天。ひび割れたコンクリートとのグラデーションが地味にうつくしい。
 地上十三階立ての古びたビルの屋上を両手をポケットにつっこんだままゆっくりと進んでいく。


 たたずむ給水塔。
 表示も注意事項もかすれてもう読めない。何に使ったのか、使われないからここに捨て置かれたのか、隅の方に廃材が積み重なっている。灰皿がわりのアルミのバケツのなか、朽ちていく吸い殻。雨に濡れて湿り崩れていく段ボール。放り出された物干し竿。粗大ごみに出し損ねた書類棚。放置されたがらくた。忘れ去られたものたち。ぬるい風が頬にかかった髪をなぶる。


 少し、霧が出てきたのかもしれない。空気中の水分が密度を増す。重くなる。肌がちりちりと反応した。


 ――そんなに敏感じゃなくていい。


 精度を落とすよう意識する。調節はいつもむずかしい。感じやす過ぎては生きていくのが困難だ、特にこちら側では。


 屋上の端に備えつけられた手すりは俺の腰上あたりまである。一度、つかむ。冷たく確かな感触、てのひらに錆がわずかに付着してざらつく。鉄の匂い。不快じゃない。軽々と乗り越え、柵の外側に立つ。境界線に立つ。下には道路。流れる車。一部渋滞。歩く人間たち。一部停滞。何度も訪れて見慣れた街並み。なじむ風景。温度。湿度。空気。人々。


 世界。


 風が吹く。目をつぶる。深呼吸をした。まぶたを開ける。


 ――ハロー、ハロー、俺の声が聞こえるか? 俺の声は届いているか? どこかにいる誰かに。俺と同じ気持ちを抱えているかもしれない誰かに。どんな形でもいい、すべてが正しく伝わらなくても構やしない。


 大切なのは意志だ。今のこの気持ちを忘れずに持ち続けることだ。
 絶望でもいい。希望でもいい。


いつかそれらは色褪せていく。もう何もわからずそれゆえに怖れるもののない少年少女ではなくなった俺たちは知っている。色鮮やかな時間は終わってしまう。とどめてはおけない。やがて忘れてしまうだろう、なくしたものを惜しむ気持ちさえ。


 大人になるというのはそういうことだと、したり顔でいうのは簡単だ。
 しかしときにそれを拒むやつらがいる。
 現実を知りながらも流されまいとし、もがき、あらがい、どうしても自分に嘘をつけず、今のこの気持ちを、抱えている感情を、何かにぶつけずにはいられないやつらが。


 ハロー、ハロー、俺の声が聞こえるか?
 お前の声を聴かせてくれよ。


 足の位置を変える。爪先を外側にずらす。じゃり、とした砂の感触。崩れはじめたコンクリートの手応えを靴裏で確かめる。腰に重心をかける。手すりにはもたれかからない。俺は立っている。


 現在位置確認。状況把握はまだまだ。


 ひじの内側に鉄柵をひっかけて上体を倒す。一気に。腕に軽く痛みが走る。背筋が伸縮する。負担をかけると細胞が騒ぎ出す。身体の使い方を思い出す。


 ――ああ、これだ。


 欲しかったのはこの実感だ。胸のうちがざわついた。知らず、微笑んでいる。


 俺たちはいつか同じ場所にたどりつく。時間はかかるかもしれないし寄り道や回り道をして手間取るかもしれないがやがては顔を合わせることになる。


 そこは崖だ。世界の縁だ。


 飛び降りてはいけない、何もかもを投げ出してダイブした日には全部終わってしまう。けれど撤退はするな、逃げるな戻るな目をそらすなお前はここへ来た。


 ──さあ、世界と対峙しろ。


 深淵をのぞきこみながら深淵にとりこまれず。苦しみながら。ときには泣きながら。いらだち。焦り。墜ちることも逃げることも死ぬこともせずに。


 じきに知るだろう、もっとも困難なことは何か。もっとも大切なことは何か。


 目を開けろ。前を見据えろ。お前は知っている。お前は持っている。握りしめた拳におさまったものはなんだ? 一度は捨てたかもしれない、しまいこんだかもしれない、結局は諦めきれずに抱え続けているものはなんだ? 確かめるために触れれば指先を熱くする。全身に血が通う。脈打ち、ふるえる、あの感覚を取り戻せ。


 ぼろぼろに汚れてもなお、光を放つそれの名前を呼べ。


 今はまだうまくいえないというなら俺がかわりに告げてやる。あくまでも俺の言葉だから後で自分なりに直せばいい。


 よう、友人。調子はどうだ? お前の声は届きそうか?
 どうか話し続けてくれ。
 どんな形でもいい、すべてが正しく伝わる保証などない。それでも俺は聞いている。聴きたいと願う。


 この世界の縁に踏みとどまるという、意志を。




     ※      ※



運命は割とごろごろとそこらへんに転がっている。
 無造作に。安易に。気づかないだけだ。もしくは自分に気がつくための心の準備ができていないだけだ。今はまだ。


 残念に思うことはない、『何者でもないということは何者にもなれるということだ』。あくまでも可能性を秘めている、という話だが。そもそも運命なんて本来ならば軽々しく扱ってはいけないものじゃないか、たとえ単なる言葉遊びにしても。それなりに重く、それなりにおごそかであって欲しいというのが俺の希望だ。


だが現実はいつも理想を裏切る。


 事実はあっけなく、ときに情けなく、とても真実だと信じるに値しないできごとをこいつが真相だと突きつけてくる。まあいいかそれも楽しいかもしれないと諦めて腹をくくるには俺はまだ若過ぎ、行動力があり、イマジネーション豊かで、内緒だがちょっぴり少女趣味で、自他に認めるロマンチストで、やっかいなことに自覚もしていた。


 そういった俺にはそれこそ運命的な出会いがふさわしい。


 ──と、ひそかに夢見ていたにもかかわらずリアルのなんとあえないことか、今でも納得がいかない。思い出すと腹が立つからそんなときは黙ってとなりにいる友人を殴って――あくまでも軽くだ手加減は俺の友情表現だと知れ――みたりする。なぜなら責任の半分くらいはこいつにあるからだ。


 なあ、聞いてくれよ。


 俺の見つけたもしかしたら運命の片鱗なのかもしれない人間が、休日ごとに代々木公園にてひとりきりで歌っていて、しかも聴いていたのは一羽のカラスだけで、そのカラスが日を追うごとに愛おしくなってしまって、しまいには唯一無二の友達だの一緒に暮らしたいだのとしみじみ語るようになっていたなんて、なんだか泣けてくる話じゃないか?



 あれは五月のよく晴れた日だった。
 世間的には連休が明けたところだったらしいが、年中不定休で働く俺様ちゃんにはあまり関係のない話だ。


 そもそも俺様ちゃんと同じ仕事をしているやつがどれだけいる? 完璧に同条件でないかぎり他人との比較は無意味だ。そして能力には個人差があるから完璧完全に同じ条件下での力比べというのは不可能に近い。


 ──働きたいやつは働けばいい、休みたいやつは休め。
 俺も仕事をしたり休んだりする。


 と、えらそうなことをいったが正直な話、どちらかというと今日は休みたかった。


「暑ッついだろこれ……」


 陽気はすでに初夏のそれだ。
 薄手の春物とはいえ黒のトレンチコートなど着てきたのはどう考えても間違いだった。全体的に黒ずくめで見た目にも大変、暑苦しい。


 涼しげで透けそうな素材のカットソーやTシャツ姿ですれ違うやつらがうらやましいことこの上ない。歩いているうちに背中が汗ばんできてうんざりさせられたが俺には俺なりのポリシーというものがあり、そんな役に立たないもの下水道にでも流しちまえといわれたら多分そいつとは三日は口をきかないだろうが四日目にさみしくなって自分から話しかけてしまうだろう。


 なんの話だったか。


 若さってのは、大体において、やっかいだ――という話だったと思う、多分。そういうことにしておいてくれ。


 周囲に並ぶすでに花の落ちた新緑は瑞々しく、水気をたっぷりとふくんで葉をおいしげらせる。鼻をつくのは樹が、幹が、枝が、葉が育とうとしている匂いだ。どこか青臭い、生々しい匂いだ。切れば白濁した樹液がにじむ、まるでアレのような。


 週末のY……公園はもっと混み合っているのかと俺は思っていた。実際に訪れたことがあるのは祭りや催しものが行われている賑やかなときで、何もない『素』のこの場所に来たのは本日がはじめてだったから少し驚いた。


 おだやかなもんだな、と思う。


 向こう側からエレキギターや、どうやって持ちこんだのかドラムの騒音まで耳に入ってくるのは閉口したが。たしか園内における無許可での楽器の演奏は禁止されているんじゃなかったか?


 だらだらと散歩を楽しみながら考える。


 さきほど同じ仕事――といったが、決して多くはないものの存在する同業者とは日ごろほとんど顔を合わせない。実際に会って話すのは上司か、担当相手か、『対象』か、今日のように伝達係も兼ねる監査部の者だけだ。


 約束した時間の五分前には彼女は待ち合わせ場所に着いていた。


 一応、腕時計で確認する。目を細めたのはまぶしいからだったのだろうか。日射しがか、彼女がか、背景と対象物の比較による効果がか。


 全身黒の、黒いだけでなく革をベースにぼろぼろのレースや鈍い光を放つチェーンに彩られ、穴だらけの網タイツを腕と脚にまとい、太ももまである拘束具めいたブーツでぎりぎりと音がしそうなほど締め上げた格好は嫌でも目立つ。


 細身の身体は女性としては長身なせいもある。耳たぶと唇が機能しなくなるのではないかと心配になるくらいじゃらじゃらとぶら下げたピアス、ほとんどの指を覆う分厚いシルバーの指輪は外敵から守るための甲冑に似ている、それらアクセサリーの照り返しのおかげもある。


 ……遠くからでも判別可能なので大変ありがたい。


 今日の彼女は大富豪の未亡人が葬式で被るようなヴェールのついた帽子をのせていた。前に会ったときは金色の長いストレートヘアだったはずだが後れ毛も見えない。よほどしっかりとまとめているのだろうか。


 エレガントであり、反骨精神も感じさせ、そして浮浪者のようだ。相反する複数の要素を融合させるなんて俺にはとてもできない芸当だった。素直に尊敬したい。


 さわやかな空気が満ちるおだやかな午後にふさわしいかどうかはこの際置いておきたいと思う。


 俺の主観によれば彼女は意外と周囲に溶けこんでいた。犬を連れた老夫婦と幼子は避けて通っていたが。


 一度創造したものを破壊し、さらにそこに意味不明(と、思われてもしかたがない)装飾を加えるという趣向は人によっては理解不能だろう。


 しかし俺様ちゃんたちの仕事だって、もしかしたら人生だって、同じじゃないか? 


 創っては壊し、造っては毀し、作っては請わす。
 くりかえし、くりかえし、同じことをリピートリピート、気づかないから終わらない、気づいたって終われない。


 そこにはもはや意味などない。行動があるだけだ。理由は後で誰かが考えてくっつけてくれる。


 だから俺は彼女の服装も、そういった服装を積極的に選んでいく内面も嫌いじゃない。暑そうだし寒そうだし何よりも着脱が面倒臭そうだと感心するだけだ。


「悪い悪いごめんごめん。俺様ちゃん遅刻した? 待っててくれたりした? 三薙(みなぎ)ちゃん」
「いや。時間通りだ」
 伝達係である監査部所属の彼女は未亡人のような帽子をとって軽く頭を下げた。
「ひさしいな、有臣(ありおみ)」


 我々には正式な名字というものが存在しない。ファーストネームで呼び合っているからといって特別に親しい間柄というわけではないので誤解しないでいただきたい。


「よう、三薙女史。あいかわらず元気そうで俺様ちゃんはうれし、い……よ」


 一瞬、言葉につまった。


 狼狽は悟られただろう、俺様ちゃんは自分の気持ちを隠すのが下手だ。顔にもよく出る。人にいわせれば別に隠す必要もないという傲慢さからきているらしいが相手の心情を慮るくらいのやさしさはあるつもりだった。伝わっていないだけだ。


 もしくは俺のやさしさが剛速球または変化球すぎて受け取れないのかもしれない。受け取り拒否された気遣いは宙に浮いてどこにもいけない。そんな行き場をなくした思いやりが俺のまわりにはふわふわとただよっていて、なんともいえない風情をかもしだし、いつからか哀愁をおびたいい男になってはいないかと最近ひそかに期待しているのだが残念ながら成果はまだでていない。



※長くなっちゃうのでとりあえずここまでー。
こんな感じのとかを書いているよ……!

宝石箱


落ち込んだときやイライラしているときは持っているアクセサリーを取り出して並べてみる。


キラキラしたもの。
つやつやしたもの。
ハートにクロス、王冠やアリス、カメオに蝶、好きなモチーフばかり。


ひとつひとつ、元に戻しながら手に入ったときのことを思い出す。


これはあのときの。どうしても欲しくて何度も売り場に通った。
これはあのひとから。最近もお元気そうでなにより。
これは母から。16歳のバースデイに贈られた誕生石のピアス。


先日、憧れだったジュエリーケースを注文した。早く届いて。
淡いピンクにチョコレートブラウンのラインの入ったトランク型。見せる収納がしたいから開けっ放しにしておきたい。


大きくはないし、一段しかないし、そんなにたくさん入るわけじゃない。でも今の私にはこれ、って思ったの。


これから先、アクセサリーやジュエリー、宝石と呼ぶのがふさわしい高価で豪奢な装飾品に囲まれるか。


それとも『必要なものが必要なだけあればいいの』と、いつも決まったシンプルな指輪やネックレス、ピアスをお守りのように、もうひとつの膚のように身につけ、たまに大人の遊び心でインパクトのあるものも購入する、そんなひとになるのか。


今はまだわからないから。


間接照明だけの部屋のなか、真夜中に、ゆっくりとローズヒップのお茶を飲みながらアクセサリーを整理する。


うっとりとながめながら。
思い出に浸りながら。


終わるころにはこころのささくれも取れている。さあ、お風呂に入ろうかな。先日見つけたソルトの入浴剤も試してみたいし。


そしてバスタブにお湯を入れている間、これから欲しいアクセサリーやジュエリーのことを考える。私のいつも持ち歩いているノートには『何歳までに手に入れたいアクセサリー/ジュエリー』が書かれている。


アンティークのハミルトンの腕時計。

つけているかどうかもわからないくらい小さな、動くと光の反射できらりと一瞬光る、一粒ダイヤのネックレス。

本真珠の、クールなときには長め、カジュアルやかわいらしくしたいときには二連でつけられるように、40cmのネックレス。
バロックパールにも憧れるけれど、それは年をとってからの愉しみにとっておく。


まだまだ数は少ないけれど、これからどんなものがどんなふうに収められていくのか、楽しみでもあり少し怖くもあり。


3月9日はミクの日!


だそうです。いや、だったそうです。過去形だよ終わっちゃったよ祭に乗り遅れたよ…!そうかぁ昨日みっくみくの日だったのかー…ほわん。最近ボカロランキングのチェックもしてないので時間があるときにやろうと思います。


ずっと8月発売予定の炉心融解リンヴァージョンフィギュアが欲しくてたまりません。予約しようか迷い中です。いや待て立体に手を出したらそれが最後、坂を転がるようにごろごろと落ちていくのは必須、防波堤決壊・理性崩壊決定、財布の中身もおしゃれ部屋を目指していたのも塵芥に、大ピンチです。でも欲しい…あ、あのねっ一個だけ!大丈夫、一個だけだから!(だめっぽい)


鏡音リン 炉心融解 (1/8スケールPVC塗装済み完成品)

鏡音リン 炉心融解 (1/8スケールPVC塗装済み完成品)

人は成長できるんだ〜底辺からランキング1位までの軌跡〜


底辺の王子様こと俺たちの歌を歌ってくれるトモナシ氏が歌ってみたカテゴリのランキングでどうしたの1位だよ…!本当に何があった。


その軌跡、トモナシマイリスト→http://www.nicovideo.jp/mylist/8909639



その成長っぷり↓


【ダブルラリアット替え歌】 伸びぬラリアット 【歌ってみた】


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そして一年後。謎の感動じゃない、明確な感動だ…こ、これは涙じゃなくてなんかの汁なんだからねっ!!


【ダブルラリアット替え歌】 ノビルラリアット 【歌ってみた】


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トモナシ動画の何がいいかというと、もちろん歌詞の異常なうまさや画像編集の何気ない巧みさもあるですが、一番は思わず応援したくなるところとか、初期から見ているとその成長に涙できるところ、トモナシ氏の閲覧者を楽しませようとする姿勢、そしてうp主と観ている側の距離感だと思います。あったかいコメに泣くよ!


ダメオとシンデレラでアンチが来たときには「アンチキタコレ!これで勝つる!」「トモナシよかったなあ、アンチがつくほど有名になるなんて」「アンチどこ!?どこにいるの!?」という種類のコメが飛んで肝心のアンチコメが見えなくなったものです。懐かすぃ。お前ら大好きだ。



トモナシの名前を一躍知らしめたブレイク曲。元歌詞と比べるとその替え歌歌詞のうまさが分か…っていうかやめて!その携帯登録番号見せなくていいからほんともう勘弁してくださいライフはとっくにゼロよ…!(泣)


【替え歌】 ダメオとシンデレラ


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どうやらラバーズ病に感染したようだ。


最近、頭のなかでずっと鳴ってるわけです、あのメロディが。詳しい経緯はここ数日の当ブログをご覧ください。
以下、ニコニコ大百科より引用です。



ラバーズ病感染者リンクとは、ラバーズ病ウィルスに感染した者たちである。




流行の歴史


第一次感染


現実逃避Pの「裏表ラバーズ」は高いキーでまくしたてる歌詞とその疾走感から、高い中毒性をもつ動画である。

当然、動画投稿直後から歌い手に感染が広がり、「歌ってみた」動画が爆発的に投稿された。

しかしこの事態はVOCALOID殿堂入り曲においてはよくことで、はしかと同じ一過性の流行であるというのが、大方の認識であった。


第二次感染


再びウィルスが猛威をふるったのは2010年1月末のことである。
音MAD作者たちが、様々な素材を用いて「ラバーズMAD」の投稿を始めた。

その感染力は強く、瞬く間に多数のMAD動画がニコニコ内に現れることとなった。

ここにおいてニコニコ疾病予防管理センター(NDC)は、一連の大流行を「ラバーズ病」と認定し、感染者に本タグをつけることで動画の隔離と感染への注意を呼びかけた。


第三次感染


NDCの注意喚起もむなしく、事態はさらに悪化する。

2月初め、ラバーズMAD動画を元にした「歌ってみた」動画が大量に投稿され始めた。

彼ら歌い手たちは既にラバーズウィルスに感染し免疫を持っていたはずなのだが、
ラバーズMADの前には全くの無力だった様である。

さらにはMAD動画以外にも、自分で替え歌を作り動画を投稿する新種まで現れ始めた。
この新種は主に「銀魂」で猛威を振るっている。詳細は「銀魂ラバーズ」の記事にて。



結果、ラバーズウィルスはニコニコで猛威をふるい、
刻々と増えていく感染者たちを把握しきれていないのが現状である。


疫学


本来音MAD作者たちへの感染力は弱いはずのウィルスが、なぜこれほどまでに大量の感染者を出したのか専門機関が現在研究中である。一番有力な説は以下の突然変異によるものである。


ラバーズウィルスはV1(Vocaloid)N1型のウィルスでネット上に存在する感染者の動画を見ることで伝染する。
このV1N1型は歌い手に対して感染力が強く、VOCALOID曲が発表されると「歌ってみた」動画が多く投稿されるのもこのウィルスの影響である。


専門機関によれば、ラバーズウィルスは潜伏期間中に突然変異を起こし、その結果音MAD作者にも強い感染力を示すようになったのではないかとみている。


突然変異がどの時期に起こったのかは定かではないが、初めて突然変異体が発見された感染者は板東英二であるとされている。

二進も三進もあっちもこっちもみんなでラバーズに飛び込んでいけ


ちょ、銀魂ラバーズ自重…! 先日もブログに書いたけど、なんか数日のうちにものすごいことになってる件について。これはひどい、いいぞお前らもっとやれ。



★原曲様 『裏表ラバーズ』

現実逃避Pことwowaka氏による初音ミク曲。JOYSOUND配信でカラオケでも歌える得体の知れないものに侵されてしまい知らず知らずのうちに横隔膜突っ張っちゃう中毒曲。


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★マヨネーズラバーズ歌ってみた

大体こいつのせい。ちマヨったこいつのせい。ありがとう。


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★ドSラバーズを歌ってみた。

総悟はディスりにくるの早すぎと。


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★カグラバーズ歌ってみた

アルアルがかわええ…! TKG食べたくなってきた。


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★甘味ラバーズを歌ってみた

やっと主人公が本気出し…え?出してない?


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★新八で裏表ラバーズ 完成 / ※タイトル募※

はいそこ、地味とかいわない。指差さない。その指を眼鏡にこすりつけて曇らせない、そんなことしなくても明日が見えなくて大変なんだからね。あと今後の展開とかキャラ方針とかもちょっと今曇り気味な(以下ry)


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★ミントン・ラブ・ナイツ歌ってみた

はいだからそこ、地味とかいわない何ジミーって。この子はちょっとミントンが大好きなだけのライバルキャラもいない地味な監察ってあ、ごめん地味とかいっちゃってるけどこれは言葉の綾で、ええと何をいいたいのかというと山崎大好き。


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★ジミーラバーズを歌ってみた

カバディの設定はどう生かせばいいですか先生…!弾幕に吹いたよ!愛されてるなぁ。


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★『流行に乗って』人生転落ラバーズ『裏表ラバーズ歌ってみた』

おじさんはねー自分の芯を通したんだよ。MADAO★らぶ。


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★ヅラバーズじゃない!カツラバーズだ!を歌ってみた

ラップが!ラップが!!


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★エリザベスラバーズ歌ってみた(?)

もう似てるとか似てないとか。よし歌詞職人、出番が来たぞがんばれ超がんばれ!そして乙!ちょ、誰かボードと書くもの持ってきてぇええ!!


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★他にもいろいろ!(くす魂さんの公開マイリストをリンクさせていただきました)→http://www.nicovideo.jp/mylist/17643652


★だって『攘夷ラバーズ』歌ってみただけでこんなにあるんだぜ…(摩天楼さんのマイリスにリンクさせていただきました))→http://www.nicovideo.jp/mylist/17679108


★『銀/魂流星群』を歌ってみた。

せっかくなのでこれも置いておきますね。歌詞、歌ってみた共に完成度高杉。途中泣いちゃったよ…。泣かすなよう…。そして杉田さんと子安さんは仕事してくださいタグ理解した。


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