むかしのはなし


さほど昔々でもない今日ちかごろ、あるところにあるうさぎがおりました。



うさぎは大変な恥ずかしがり屋でございました。


どれくらい恥ずかしがり屋なのかといいますと、ちょっとしたことを狐にからかわれて真っ赤に火照った顔をかくすため冬の河川に身投げしてどんぶらこっこと人里ちかくまでのんきに流されていったあげく親切な人間に拾われただけでもありがたいというのにおそれおおくもけだものの分際でその人間に一目惚れし一宿一飯の恩義として常套手段である「わたしを食べてください」も果たさずに逃げ帰りくりかえしますが一目惚れしたので小さな胸にもさもさしたてのひらをあててはお月様を見上げてため息ばかりつくようになってしまったくらいでした。



うさぎは恥ずかしがり屋ですが度胸と行動力だけはありました。アンバランスなほどにありました。


再び、想い人の目前にすっくと立ったうさぎは、



ぺたん。



たれさがった両耳を、好きなひとの両目にぺったんこしました。目隠しです。暗転です。びっくりします。むずむずと鼻をくすぐるわさわさと群毛した短い毛と生臭い獣の匂いが大変に不快であったと涙ながらにお察しいたします。



「○○さん!」

「はいっ!?」



ちゅ。



うさぎは想いのたけをぶつけるため、くちづけをかましやがりました。そして、全速力で走り去ったのです。



ヒットアンドアウェイです。撃って逃げろ。打って逃げろ。ともかく逃げです。やり逃げです。ひきょうものが。このチキン。ああうさぎなのににわとりとはこれいかに。かわいそうな○○さんは目隠しされたびっくりさで思わずくちづけを受け入れてしまったのでした。まるでそれは眼鏡を外されたおどろきでぽかんとしている間にくちびるを奪われてしまった眼鏡っ子乙女のよう。



「○○さん!」

「はいっ!」



ぺたん。ちゅ。ダッシュ



「○○さんっ!」

「……ッはい!」



ぺたん。ちゅ。逃走。



「○○さんっ!」

「は、はいっ!」



ぺたん。ちゅ。全力逃亡。



○○さんにもそろそろ学習していただきたいものです。うさぎも混線していますが○○さんもちょっとお脳の具合がよろしくないのではないかと疑いたくなります。



あほの子ほどかわいいのは世の常だろ常考ちょおま>310涙目必死だなそもそもこれフラグ立ってなくね?告白→お断りだ→うさぎ鍋マダー?等々楽しいやりとりを愛だの恋だのという他人のウキウキドッキドキな色恋沙汰はおともだちパンチで木っ端ミジンコに粉砕してやりたい我々は不毛にくりひろげておりましたがそんな傍観者を尻目にラブロマンス(獣姦)は日に日に色を濃くし温度をあげ湿度をあげ、とうとうチキンうさぎは口頭で想いを伝えるという暴挙にでたのでした。



しかしそこはそれ、恥ずかしがり屋のうさぎのことです。



「○○さん!」

「はい!」



いつもは相手の目隠しをするぺったん長耳を、自分の顔にはりつけておりました。恥ずかしいのです。真っ赤なのです。羞恥心は軽くMAX値です。



耳をおさえるうさぎのもさもさした両手は、小さくふるえておりました。からだもふるえておりました。全体的に、毛玉がぷるぷるしていました。小さな白い毛玉がぷるぷる。これは伝承にある「ケセランパサラン」ではないでしょうか。と○○さんは思ったとか思わなかったとか。



うさぎはいいました。



「ぼくは、○○さんが好きです。おつきあいしたいです。ぼくは、おつきあいってどういうものか、よくわかりません。でも、おつきあいしたいです。なんでかというと、ぼくは、○○さんが好きで、好きだっていうのは、○○さんのそばにいたり、で、できたら、もっと近くにいってみたり、なんていうか、ぴたってくっついてみたり、あと、手をつないだりしたいってことです。



ぼくはぼくの好きな本を○○さんに読んでほしいです。あと、○○さんの好きな本も貸してほしいです。好きな歌を教えてほしいです。いっしょに歌いたいです。ぼくは、へたくそだけどダンスもできます。○○さんと手をつなげたら、きっと、もっともっと上手に踊れます。それで、ぼくの好きな大きなお月様を、○○さんには見せてあげたいです。



いっしょにいて、くっついたり、好きなものを教えっこしたり、笑ったり、泣いたり、踊ったり、歌ったり、ぼくはただのうさぎだからよくわからないけど、そういうことをして、胸がよくわからないけどきゅうってなって、苦しくなって、泣きたくなって、でも、嫌じゃなくて、いっぱいうれしくなるのが、おつきあいなんだって思いました。だから、ぼくと、おつきあいしてください」





…という話を考えてみた。ちなみにおともだちパンチと木っ端ミジンコは森見登美彦から。全体的に森見氏ぽい。