滝本竜彦『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』


ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ (角川文庫)

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ (角川文庫)


映画化されるそうですが本当ですかと疑っていたら先日駅に大きな宣伝ポスターが貼ってあって、ああ本気なんだ…としみじみしました。


原作を読んだのがかなり前なのでなんだか感慨深かったです。作者が『ひきこもりのトップランナー』としてTVとかにも出演してたころです。『NHKにようこそ!』の滝本竜彦デビュー作。


 しかしいま、オレの前にはチェーンソー男がいる。どこまでも易しくわかりやすい、諸悪の根源、チェーンソー男がいる。
 それこそがオレの希望なのだ。


だらだらと先の見えてしまった高校生活を送る山本陽介の前に突然現れたのは、ナイフを持ったセーラー服の美少女・雪崎絵里。彼女は戦う。不死身のチェーンソー男と夜ごと闘いをくりひろげる。理由はあるけど教えてくれない。


ラスト近くでやっと明かされた事情は同情の余地はあるもののだからどうしようって感じだ。え?いやわかるけど気持ちはわかるけど、ちょっと待てそれは違うんじゃないか?いいのそれで?だって下手したら死ぬよ?死ぬんだよ?チェーンソーでキュィイイイインって胴体まっぷたつだよ?血とかすごい出るよ?


そこまでの危険をおかしても戦わなきゃいけないのか?
答えはイエスだ。
なぜなら僕たちは/わたしたちは生きているからだ。
ただ生きているだけじゃだめだ。
もっとちゃんと、確かに、呼吸したいのだ。


そんな絵里ちゃんと一緒に戦うことを決めた陽介は夜な夜な自転車をこいで彼女の戦闘の手伝いをする。亡くなった友人が書いた青臭い歌詞がそれゆえに切実にこころに響く。
 

現実はわかりにくい。それにひきかえ、物語のどれほどわかりやすい起承転結っぷりか。


けれど大抵、日常生活のなかにそんなにわかりやすい、絶対の物語は転がっていない。ありきたりのドラマは揺るぎない日常の前にあっけなく流されていってしまう。


だから、物語を。絶対の物語を。


これは求めることをやめず、諦めつつも実はしぶとく諦めず、幸せになろうと目の前にあらわれたものをつかんで離そうとしなかったふたりの話だ。


たとえそれが藁でも蘆でも。