桜庭一樹『私の男』


私の男

私の男


おとうさんからは、夜のにおいがした。


大変気持ちの悪い小説だ(ほめ言葉)。


読んだのは直木賞受賞の報が入る少し前だったように思う。ラノベ出身作家が直木賞をとった、というのは文学ヲタの自分のような人間にとって大きな意味をもつとともに前回候補にあがっていた“赤朽葉家の伝説”(自サイト感想はこちら)の方がふさわしかったのではないか。とも思った。


しかしこころに残るという意味ではこの作品が上だ。引っかかるといってもいい。読了したあとたまらない気持ちになって、何度か読み返した。


秘密めいた養父と若い娘、腐野淳悟と、花。どうしようもなく強く深く結びつき、絡みついて離れられないふたり。生きるために奪い、生きるために殺し、逃げて、生きるために離れようとする。物語は過去へとさかのぼり、それぞれの語り手によって父娘の関係と起こった事件が描写されていく。


ところどころ妙な箇所で漢字をひらがなにひらいた文章がとても効果的でひどく気持ちが悪い。おとうさん。おかあさぁん。そしてそれらはすべておそらくは作者の意図するところであり、技巧なのだ。