甘えんじゃねえよ/ルネッサンス吉田


淋漓絳血腹中文(りんりたるこうけつふくちゅうのぶん)


BL漫画というカテゴリ分けをされていながら、この作品の本質はBLではない。ならば何かと問われれば、ジャンル『鬱漫画』である。


「楽しい感情が思いだせない」
「性欲が思いだせない」
「恋愛感情も思いだせない」
「気持ち全般が思いだせない」
「書くことに 伝えることに
 生きることに 死ぬことに 一切興味を抱けない」(引用)


11作の中・短編のうち、2本が非BLであり(予告にもそのようにあった)あと2本「ええもう絶好調で!!超バリバリ進んでます!!!」
「男の食彩」もレポ漫画であり、BL漫画のなかでさえ語られているのは上の引用文のようなことであり、それでも描き(書き)たいと腹の底から慟哭する姿である。



鬱病はひたすら落ちこむ病気と思われがちだが、本当におそろしいのはあの無気力感である。なにもできない。なにもする気が起きない。食欲はまずなくなる。性欲も低下する(薬の副作用もあるが)、本が読めなくなる音楽が聴けなくなるテレビが観られなくなる、今まで楽しくてしかたのなかったこと全般に対して、嘘のように興味がうせる。


そしてろくに動かない身体を引きずって、まともに食べていないせいで紗のかかったように薄ぼんやりする頭のなかで「死にてえ…」とつぶやき、次の瞬間、いやだまだ死にたくないと咳きこみながら涙と鼻水混じりで呪文のように「まだ大丈夫、まだ、まだ大丈夫、大丈夫」と唱える。言い聞かせる。そして起きていれば希死念慮にとらわれて精神的に死ぬので、何も考えずにすむように16時間以上過眠して、なんとか食べ物を口にして、ネットにつないで、眠剤飲んで寝る。


(というか、同じ台詞を作中のキャラが唱えているシーンがあって驚いた。あれは祈りなのか)


小生は通院歴が10年を越え現在進行ingでよくなったりぶり返したりで、先生にも完解(鬱病でいうところの完治。このように称する)はたぶんないかもしれないからなるべくつらくないようにこの病気と付き合っていけるような方法を一緒に探しましょうといわれる人間であるからして、正直な話、シンクロする部分が多すぎてつらすぎた。


それでも作者は何度も何度も描く。書く。描きたい、と。生きていたい、と。漫画を描くことが生きるためのよすがであり作者を(と、いってしまっていいと思う)この世界に引き止めておけるくさびになるのなら、描けなくなっても何度なっても、決して手放さないで欲しい。


生きていて欲しい。


甘えんじゃねえよ (EDGE COMIX)

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茜新地花屋散華 (EDGE COMIX)

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